なぜ朝筋トレを始めたのか
正直に言うと、朝は毎日「スタート地点で既にちょっと負けている」感覚がありました。目覚ましは鳴るのに体が布団から離れず、ようやく起きても首と肩が重だるい。デスクに向かっても頭のピントが合わず、10時を過ぎたころには甘いものが無性に欲しくなる——カフェラテのLとチョコバーで無理やりギアを上げる、そんな日々でした。
会議では相づちを打ちながらも、脳の回転がワンテンポ遅い感覚が残ります。アイデアが浮かんでも口から出るまでの距離が遠い。自分でももどかしいのに、ふと同僚に「大丈夫?」と聞かれて、笑ってごまかしながら内心ちょっと恥ずかしい。午後はさらにしんどくなって、15時を越えると背中が椅子に吸い寄せられるように重く、メールの返信も短くなっていきました。
夜は夜で、帰宅するとソファに沈み込み、スマホを眺めるだけで時間が溶けていく。やりたいことはあるのに、体が動かない。翌朝また同じパターンを繰り返す——小さな自己嫌悪が積み重なっていきました。健康診断の数値は悪くないのに、毎日の体感は明らかに落ちている。このギャップが一番のストレスでした。
決定打になったのは、ある日の夕方、階段を一気に上がっただけで息が上がり、エレベーター前の鏡に映った自分の顔が少しむくんで見えたこと。「この疲れ方は年齢のせいにして逃げてるだけかもしれない」と、ふと怖くなったんです。その週末、友人と話していて「朝にちょっとでも体を動かすと、日中の頭の冴え方が違うよ」と言われ、引っかかっていたピースがはまる感覚がありました。
夜トレは仕事や予定に左右されやすい。でも朝なら、まだ誰にも邪魔されない。しかも、筋トレは短時間でも負荷をかければ“スイッチ”が入るはず。実際、適度な強度の運動は一回の実施直後から思考や気分に良い影響が起こりうることが示されています[1]。そう考えて、「日中の疲労感を半分にする」を目標に、30日間の朝筋トレを決めました。体重や見た目は二の次。狙うのは“日中の自分の質”です。

実施ルール
やることはシンプルにしました。平日は起きてから20分以内にスタート。自重スクワット、プランク、ダンベルのプレスやローイングを組み合わせて合計15〜20分。ここでいう筋トレ(レジスタンス運動)とは、自体重やダンベルなどの抵抗で筋肉に負荷を与え、筋力・筋量の維持向上を狙う運動のことです[10]。なお、公衆衛生の推奨では“筋力トレーニングを週2日以上”行うことが勧められています[7][8]。フォームは完璧を求めず、まずは続けることを最優先。カレンダーに○をつけ、メモアプリには「睡眠の質」「朝のだるさ」「昼の眠気」「夕方のスタミナ」を5段階で記録するルールも作りました。
初日の前夜は、「本当に変わるのかな」という半信半疑と、「明日の自分は今日よりスッキリしているかもしれない」という小さな期待が半々。目覚ましをいつもより30分早くセットして、寝室の見える位置にダンベルを置いてから布団に入りました。——これが、30日間の“朝の反撃”の始まりでした。

1週間目
朝筋トレを始めた最初の1週間は、とにかく「眠気」と「筋肉痛」のダブルパンチでした。目覚ましが鳴っても体が布団に張り付いて動かない。頭の中では「今日は休んでもいいんじゃないか」という声が何度も響きます。それでもなんとかリビングに出てスクワットを始めると、まだ寝ぼけているのか足が鉛みたいに重くて、10回やるだけで心臓がバクバク。正直、この時点で「30日間なんて無理じゃないか」と思いました。
2日目、3日目あたりからは筋肉痛が本格的に襲ってきました。階段を下りるときに太ももがズキッと痛み、イスから立ち上がるだけで「うっ」と声が出るほど。会社でも同僚に「歩き方ぎこちないけど大丈夫?」と笑われてしまい、内心は恥ずかしさと後悔が混じっていました。やっぱり自分には向いてないんじゃないか、と弱気になる瞬間が何度もありました。
特にきつかったのは4日目の朝。前日の仕事が遅くなって睡眠時間が短かったうえに、筋肉痛で体を動かすのが億劫。目覚ましを止めて二度寝したい衝動に本気で負けそうになりました。でも、「ここでやめたら結局また元のだるい日常に戻るだけだ」と思い直し、重い体を引きずってダンベルを握りました。その瞬間は気持ちも体も全然乗っていなかったのに、終わった後にほんの少しだけ頭がスッキリしている自分に気付いたんです。その小さな変化が「明日もやろう」と思わせてくれました。
とはいえ、1週目は正直「続けられない」と思った瞬間の連続でした。でも同時に、「少しでも変わり始めているかもしれない」という実感も芽生えた大事な時期でもありました。筋肉痛や眠気と格闘しながらも、カレンダーに○をつけるたびに「よくやった」と小さな達成感が積み上がっていったのを今でも覚えています。

2週間目
正直、1週間目は「眠い」「筋肉痛い」で心が折れそうだったのですが、2週間目に入ったあたりから少しずつ変化を感じ始めました。特に驚いたのが、朝トレを終えた直後の頭のスッキリ感です。普段なら朝の会議は、相手の話を聞いていても頭がぼんやりして、メモをとる手が止まることが多かったんです。ところがその日は、発言の意図がスッと頭に入ってきて、普段なら聞き流してしまいそうな細かいニュアンスまで理解できる。気付けば自然に質問や意見も出て、会議が終わったあとに同僚から「今日、やけに冴えてたね」と言われて、内心ちょっとニヤけてしまいました。こうした“運動直後の脳の切れ味”は、科学的にも即時的な効果が確認されています[1]。
昼過ぎの眠気にも変化がありました。これまではランチを食べたあと必ずと言っていいほど、強烈な眠気に襲われていたんです。でも2週目からは、その眠気が確実に軽くなった。もちろんゼロではないのですが、頭の奥にシャキッとした芯が残っている感じで、午後の作業効率が明らかに違うのを実感しました。
個人的に一番うれしかったのは「自己肯定感の回復」です。これまで「自分は朝が弱い人間だ」と思い込んでいたのに、筋トレを通して「自分でもやればできる」という実感が少しずつ積み上がってきたんです。朝から一汗かいて仕事に臨むことで、「今日も一歩リードしてスタートしてる」という小さな優越感があり、それが一日中いいリズムを生んでくれるようになりました。
2週目はまさに、「あ、これは続ければ本当に変わるかもしれない」と確信を持てたターニングポイントでした。

3週間目
3週間目に入ったころ、ようやく自分でも「朝筋トレが習慣になりつつあるな」と感じ始めました。眠気や筋肉痛のピークも和らぎ、朝起きて体を動かすことが以前ほど苦ではなくなってきたんです。そんな中で起きた、ちょっとした出来事が大きなモチベーションになりました。
ある日の昼休み、同僚に「仕事はやいね」と言われたんです。最初は「え、そう?」と照れくさく笑って流したのですが、心の中ではガッツポーズでした。自分では「少し頭が冴えてるかな」くらいの感覚しかなかったのに、第三者に変化を指摘されると一気に現実味を帯びてくるんですよね。鏡の中の自分では気付けなかった小さな変化を、他人の言葉が教えてくれた瞬間でした。
その日から、筋トレをするときの気持ちが少し変わりました。ただ「続けなきゃ」という義務感ではなく、「もっと変化を実感したい」という楽しみに変わっていったんです。スクワットの回数を自然に増やしてみたり、プランクの時間をちょっとだけ長くしてみたり、自分から挑戦したくなるようになりました。
さらに驚いたのは、普段の表情や姿勢まで変わってきたことです。以前は午後になると肩が丸まり、無意識に顔も疲れていた気がします。でも3週間目あたりからは、背筋がスッと伸びて、夕方でも目の下のクマが薄い。自分の変化を肌で感じられるようになると、会話のトーンや立ち居振る舞いまで前向きになってきた気がしました。
周囲からのたった一言が、こんなに大きなエネルギーになるとは思いませんでした。ただの社交辞令ではなく、自分の努力がちゃんと表に出ているサイン。3週間目は、同僚の一言のおかげで「朝筋トレをやってよかった」と心から思えたターニングポイントになりました。

4週間目
4週間目に入って、一日の終わり方が明らかに変わりました。以前は18時を過ぎると視界が少し曇って、脳がスローダウンする感じがあったのですが、今はむしろ「もう一仕事いけるな」と思えるくらい余力が残っています。社内チャットの返信も簡潔ではなく、要点をまとめて“あと一押し”の提案まで付けられる。自分でも「この集中力、いつの間に戻ってきた?」と驚きました。
具体的に体感が違ったのは、夕方の決裁資料の修正です。以前は、細かい数値の整合を取る作業になると目が滑ってミスが出やすかったのに、この週は最後まで集中が切れない。退勤前にレビューに回した資料が、そのままOKで返ってきたとき、「あ、今日の自分はブレてない」と。
帰宅後の過ごし方も一変しました。以前はソファに座った瞬間、重力に負けて動けなくなっていたのに、今はキッチンに直行して、10分で作れるタンパク質多めの夕食をサッと用意できます。湯気の立つ味噌汁の前で「まだ体のエンジンが回ってる」と感じるのは、ちょっとした幸せです。食後に散歩を15分、軽いストレッチを5分。これまで「やったほうがいい」と頭ではわかっていてもできなかったことが、自然に習慣化されていくのが不思議でした。
面白いのは、疲れないからこそ“だらけない”という好循環が起きることです。以前の私は、疲れを言い訳にスマホで動画をだらだら見て夜更かしし、翌朝さらにだるくなる…というループにハマっていました。4週間目は、エネルギーが残っているからこそ、逆に「早く寝て明日の朝も調子よくスタートしたい」と思える。結果、就寝も前倒しになり、翌朝のトレーニングの質がまた上がる——まさに螺旋階段を登るような感覚です。
数値的にも小さな変化が出ました。メモアプリでつけている5段階評価(朝のだるさ/昼の眠気/夕方のスタミナ)の「夕方スタミナ」が、平均で2→4に上がりました。体重や体脂肪の劇的な変化はまだありませんが、鏡を見たときの顔のむくみが減り、シャツの首元がすっきり見えるように。何より、自分の中の“やる気”の残量が夜まで維持されるのが一番のご褒美でした。
週の最後、金曜の夜にふと気づいたんです。「あれ、今週、“疲れたから今日は無理”って一度も言ってない」。この一言が、自分の生活が確実に変わってきた証拠でした。朝の20分が、夕方の自分を別人に変える。4週間目で、それをはっきりと実感しました。

食生活や睡眠への波及効果
朝筋トレを続けていると、狙っていないところまで生活が勝手に整っていく瞬間がありました。まず食生活です。これまでは10時前後に甘いものが無性に欲しくなってカフェラテと甘いパンでしのいでいましたが、朝に体を動かすようになってから、体が自然と「タンパク質をくれ」と訴えてくる感じが出てきました。結果、朝食はトレ後に納豆+卵かけごはん、またはオートミールにプレーンヨーグルトときな粉をのせるパターンに定着。昼はサラダチキン+おにぎり、夜は鶏むねのソテーや豆腐チゲなど、タンパク質を中心に“腹持ちの良い組み立て”に変わりました。タンパク質の十分な摂取は、健康づくりの基礎として食事摂取基準にも位置づけられています[2]。
水分とカフェインの扱いも変わりました。起床直後はコップ一杯の水→5分だけストレッチ→筋トレ→ブラックコーヒーという順番に固定。以前は寝起きすぐにカフェラテで目を覚ましていましたが、トレ後にコーヒーを回すと、頭の覚醒感が長持ちして昼の反動落ちが起きにくいと体感しました。加えて、就寝6時間前までのカフェインでも睡眠を妨げる可能性があるため、ランチ後は摂る時間を前倒し・16時以降は避けるルールを導入しました[3]。
睡眠は“質のグラデーション”が変わりました。自分のメモでは、入眠までの時間が平均20分→12分に短縮、中途覚醒は週あたり2〜3回→0〜1回に。就寝時刻も23:30前後→22:30台に前倒しできる日が増えました。こうした主観的な改善とも整合する形で、身体活動は睡眠の質の向上に寄与することが報告されています[4][5]。
意外な副産物は、晩酌が“自然に”減ったことです。朝のトレをちゃんとやりたいので、前夜の自分がブレーキをかけてくれる。飲むとしても缶ビール1本で切り上げ、代わりに炭酸水+レモン。結果として夜のむくみが減り、翌朝の顔がすっきり。飲酒に関しては、量の自己管理やノンアル飲料・水を挟むこと、休肝日を設けることなど、健康に配慮した行動が公的ガイドラインでも推奨されています[6]。
総じて、朝筋トレは“筋肉をつけるための行動”というより、“日中の自分の質を底上げするスイッチ”でした。食事は「何を食べると昼に落ちないか」を軸に選べるようになり、睡眠は「明日の朝を軽くするために今できること」を逆算できるようになった。生活のあちこちに小さなレールが敷かれて、気合いに頼らずに調子が上がっていく——その感覚をはっきり味わえたのが、一番の収穫でした。

三日坊主を乗り越えられた習慣化の工夫
正直に言うと、始める前から「自分は三日坊主だから絶対続かないだろう」と思っていました。過去にランニングや英会話アプリに挑戦しても、三日目、四日目あたりで「今日は忙しいから…」とサボって、そのままフェードアウトするのがお決まりのパターンでした。そんな自分でも朝筋トレを30日間続けられたのは、いくつか小さな工夫が効いたからだと思います。
まずは「ハードルを下げる」こと。最初から完璧を目指さず、“最低ライン”を用意しました。例えば「寝起きにスクワット10回やるだけでもOK」と決めておく。実際にはやり始めると10回で終われず、気づけばプランクや腕立てもやっているのですが、「最低でもこれでいい」という逃げ道があると不思議と続けやすかったです。
次に取り入れたのは「見える化」。カレンダーに大きな丸をつけていく方法です。最初はただの○印でしたが、10日連続で並んだときに「この列を途切れさせたくない」という気持ちが芽生えてきました。サボりたい朝でも「せっかく続いているのに、ここで空白を作るのはもったいない」と思えて、体を動かす後押しになりました。
音楽も強力な味方でした。お気に入りのプレイリストを「朝筋トレ専用」にして、再生すると体が自然に動き出すように条件づけ。1曲終わるまではスクワット、次の曲ではダンベル、とリズムを決めることで、トレーニングが“義務”ではなく“ルーティン化した遊び”に変わりました。特に気分が乗らない日は、イヤホンを耳に差すだけでスイッチが入る感覚がありました。
もう一つ大事だったのは「ご褒美の設定」です。朝トレ後は必ず冷蔵庫から炭酸水を取り出して、キンキンに冷えた一本を一気に飲む。それだけのことですが、「これを飲むためにやろう」と思えるくらいのモチベーションになりました。小さなご褒美でも毎日の楽しみになると、行動のハードルがぐっと下がります。
最後に意識したのは「完璧じゃなくていい」と自分を許すこと。旅行や寝不足でどうしても10分しかできなかった日もありましたが、それでも「ゼロにしなかった自分」を認めてあげました。完璧を求めると続かないけれど、「小さくても積み重ねている」という実感が、三日坊主を乗り越える最大の力になったと感じています。
こうした小さな工夫の積み重ねが、気づけば30日間をクリアさせてくれました。そして不思議なことに、一度「自分でも続けられた」という経験を持つと、次の習慣作りにも自信が持てるようになるんですよね。筋トレだけでなく、生活全体のリズムを整える礎になったと思います。

30日続けて分かった「朝筋トレが人生を底上げする理由」
30日間の朝筋トレを終えて振り返ると、「体を鍛えた」という以上に、日常の質そのものが底上げされた感覚があります。始めた当初は「眠気や筋肉痛に負けそうで無理かも」と思っていましたが、続けていくうちに得られたのは“体力”よりも“自分をコントロールできる自信”でした。
一番大きな変化は、やはり日中の集中力です。以前は午前中から頭がぼんやりして、午後は眠気との戦いでしたが、今では「頭が冴えたまま一日を走り切れる」感覚があります。そのおかげで仕事の効率も上がり、周囲から「仕事がはやいね」と言われることも増えました。第三者からの評価は、自分が変わっていることを裏付けてくれるので、モチベーションの燃料になりました。
加えて、食生活や睡眠のリズムまで自然と整ったのも大きな収穫です。朝筋トレがあるからこそ「夜更かししない」「栄養を意識する」といった行動が連鎖的に生まれました。無理やり頑張っているのではなく、「やったほうが気持ちいいからやる」という状態に変わったことが、何より継続につながったと思います。
最後に、国内外のガイドラインも触れておきます。成人人口では「中強度の有酸素運動150分/週、または高強度75分/週」+「筋力トレーニングを週2日以上」という目安が示されています[7][8]。日本でも最新の取りまとめが公表され、日常での歩行・運動を増やす実践的な考え方が整理されています[9]。朝の20分の筋トレは、この推奨を無理なく達成していくための強力な“スイッチ”になり得ます。
もし以前の自分のように「朝からだるい」「午後がしんどい」と悩んでいるなら、試しに3日でもいいから朝筋トレをやってみてほしいです。最初は筋肉痛で挫折しそうになるかもしれませんが、その先に「別人のような夕方の自分」が待っています。30日間で得た一番の学びは、「朝筋トレは筋肉だけでなく、自分の人生そのものを底上げしてくれる」という事実でした。

参考文献
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Benefits of Physical Activity. Updated April 24, 2024.
- Ministry of Health, Labour and Welfare (MHLW), Japan. Dietary Reference Intakes for Japanese, 2025.
- Drake C, et al. Caffeine effects on sleep taken 0, 3, or 6 hours before bedtime. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2013. PMC3805807.
- Kredlow MA, et al. The effects of physical activity on sleep: a meta-analytic review. Journal of Behavioral Medicine. 2015. Springer.
- CDC. Health Benefits of Physical Activity for Adults. Updated March 25, 2024.
- 厚生労働省. 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン. 2024年2月.
- World Health Organization. 2020 WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour. 2020.
- CDC. Adult Physical Activity Guidelines. Updated December 20, 2023.
- 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023. 2023年11月.
- 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動基準2013 参考資料(レジスタンス運動の効果に関する記述). 2013年.