「迎え酒」が脳裏をよぎる
昨日の夜は正直、調子に乗りました。久しぶりの飲み会でテンションが上がり、ビール、日本酒、ハイボール…と、気づけば終電ギリギリまで飲んでいました。目が覚めた瞬間から、頭の奥がズキズキと痛み、まるで頭蓋骨の内側から誰かがハンマーで叩いているような感覚。カーテンの隙間から差し込む朝日でさらに吐き気がこみ上げ、ベッドの上でしばらく動けませんでした。
冷蔵庫までたどり着き、水を一気に飲んでみたものの、胃が拒否反応を起こしてすぐに逆流しそうになる始末。鏡を見ると顔色は土色、目の下にはクマ。仕事がある日なのに、このままじゃとても外に出られない…そんな焦りがどんどん膨らんできました。
そこで、ふと頭に浮かんだのが「迎え酒」。前に誰かが「二日酔いは迎え酒で治る」と言っていたのを思い出したんです。冷蔵庫の隅に残っていた缶ビールが目に入ると、罪悪感と同時に妙な期待が湧き上がりました。「ちょっとだけなら楽になるかも…」そんな危うい希望に、手が勝手に伸びていくのを止められませんでした。

即効性を求めて試した定番ケア
頭痛がひどすぎて「とにかく何か効くものを!」と半分パニックのような気持ちで、まずはスポーツドリンクを一気飲みしました。冷たい液体が喉を通る瞬間は確かに気持ちよかったんですが、数分後には胃がちゃぷちゃぷしてさらに気持ち悪くなり、逆効果。水分を入れすぎたせいか、胃が膨れて吐き気が倍増しました。
次に試したのが冷たいシャワー。頭皮に水が当たると一瞬スッとするんですが、浴び終わった後には今度は体が冷えすぎて震えが止まらず、毛布にくるまってまたベッドに逆戻り。結局、何も解決していないどころか体力をさらに削られた気がしました。
「コーヒーを飲めばカフェインで頭痛がマシになるかも」と思ったんですが、二日酔いの胃にブラックコーヒーは危険すぎると判断して断念。過去に試して逆に動悸と吐き気が悪化した苦い記憶があったので、今回はあえて避けました。
鎮痛薬も頭をよぎりましたが、肝臓がまだアルコール処理でフル稼働している状態で飲むのは怖くてやめました。特にアセトアミノフェンはアルコールと一緒だと肝障害のリスクが高まると聞いていたので、自己判断でスルー。結果、どの「定番ケア」も頼れず、頭痛は続いたまま。冷蔵庫のビールに視線が向かい、「迎え酒しか残されてないんじゃ…」という危険な考えが頭を支配していきました。
アセトアミノフェン(一般的な解熱鎮痛薬)については、アルコールと併用すると肝障害のリスクがある旨の注意喚起が公的機関から出ています[1][4][5]。また、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬:イブプロフェン、ロキソプロフェン等)は胃粘膜を刺激しうるため、二日酔いで弱っている胃には負担となりえます[1]。

「迎え酒」開始(9:20)
時計を見るとまだ午前9時過ぎ。普通ならコーヒーを淹れている時間に、私は冷蔵庫の前で立ち尽くしていました。中には昨夜の残りの缶ビール。冷えた銀色の缶が、まるで「飲めば楽になるぞ」と囁いているように見えました。
頭はガンガン痛いのに、妙に手だけが動いてしまう感覚。プシュッという音と同時に、罪悪感と期待が一気にこみ上げてきました。グラスに注ぐほどの気力もなく、缶のまま一口。喉を通る瞬間、あの独特の苦味と炭酸の刺激に、なぜかほっとしてしまいました。
わずか100mlほどしか飲んでいないのに、10分もしないうちに頭痛が少しやわらいでいくのを感じました。「あれ、これ効いてる?」と一瞬だけ希望が灯り、布団から起き上がってカーテンを開ける余裕が出たほどです。
でもその瞬間、胸の奥にチクリとした不安も。「朝から酒ってヤバくない?」「これクセになったらどうする?」と自分に問いかける声が聞こえるのに、体は楽になる方向を求めている。この小さな缶ビールが、私の一日を変えてしまうかもしれない予感がしました。

15分後、罪悪感のはじまり
ビールを口にしてから15分ほど経った頃、あれほど頭を締め付けていた鈍痛が、ほんの少しだけ和らいできました。まるで分厚い膜の上から響いていた痛みが、薄皮一枚はがれたような感覚です。頭の奥に残っていた重いモヤが少しずつ晴れていくようで、「あ、これなら仕事できるかも」と思えるくらいまで回復した気がしました。
けれど、その安堵と同時に胸の奥からじわじわと罪悪感が広がってきました。「朝からお酒を飲んで楽になるなんて…」「これ、クセになったら本当にまずいかも」という自分への警告が鳴り続けるんです。それなのに、体は明らかに“楽になった方”を選びたがっている。矛盾する感情が頭の中でぐるぐる回り始め、ソファに座ったまましばらく動けませんでした。
心のどこかで「これで乗り切れたらラッキー」なんて思いながらも、もう一口飲みたい気持ちが抑えられない。この時点で、自分がギリギリの綱渡りをしている感覚にゾッとしたのを今でも覚えています。

30〜90分後:自己嫌悪の増幅
迎え酒をしてから30分ほどは、確かに頭痛が少しマシになって「これは正解かもしれない」と思えました。ところが1時間近く経ったあたりから、急に胸がドキドキし始め、落ち着かない感覚に襲われました。心拍数が上がっているのが分かるくらいで、ソファに座っていても呼吸が浅くなっているのが自分でも分かります。
同時に、口の中がカラカラに乾いて水を飲んでも追いつかない。胃のあたりがムカムカして、今度は「何か食べたら戻してしまいそう」という不快感が強まりました。頭痛は完全には消えていないのに、体が全体的に重くなり、むしろしんどさが増している気がしました。
そして一番きつかったのが、自己嫌悪です。「結局、朝から酒を飲んでこのザマか」「普通に水飲んで寝てた方がマシだったんじゃないか」と後悔の念が押し寄せてきます。まだ午前中だというのに、すでに一日が台無しになった感覚。窓の外では爽やかな朝日が差しているのに、自分だけが取り残されたような孤独感がありました。

午後の地獄
午前中の「迎え酒効果」でなんとかパソコンの前には座れたものの、午後になると一気に反動が押し寄せてきました。頭の重さは再びぶり返し、今度は眠気まで追加。二日酔いは注意力や意思決定、運動協調性を損ない[1]、画面の文字を読んでいても全然頭に入らず、メールを一通書くのに普段の倍以上の時間がかかりました。
極めつけは午後イチのオンライン会議。発言の順番が回ってきた瞬間、頭が真っ白になり、普段ならスラスラ言える説明で何度も噛みました。上司が「大丈夫?」と心配そうに笑った瞬間、顔から火が出るほど恥ずかしくなり、汗が止まらない。結局、会議が終わった後に資料を再提出する羽目になり、自己嫌悪はさらに加速しました。
「朝からビールを飲んだ自分が悪い」と分かっているのに、もう取り返しがつかない。午後の時間はほぼ仕事にならず、タスクは山積みのまま退勤時間を迎えました。罪悪感と後悔が入り混じったあの午後は、本当に地獄でした。

寝つき最悪
夜になっても、体は完全には回復していませんでした。むしろ午後から続いていた動悸と胃のムカつきがジワジワ残り、ベッドに入っても心拍が早いまま。アルコールは睡眠を分断し、浅くします[1]。寝返りを打つたびに胃が重くて、眠りに落ちそうで落ちない浅い状態が何度も繰り返されました。
夜中に何度も目が覚め、時計を見るたびに「あと3時間しか眠れない」「あと1時間半しかない」と焦りだけが募っていく。結局、朝アラームが鳴ったときには全くスッキリせず、むしろ昨日より頭が重い。これがまさに「二日酔いの二日酔い」というやつか、と鏡に映ったむくんだ自分の顔を見てゾッとしました。
迎え酒で一時的に痛みをごまかしたツケが、翌日にしっかり回ってきた感覚です。仕事に行く準備をしながら「もう絶対やらない」と心に誓ったのに、体はまだどこかであの一口の楽さを覚えているのが怖くなりました。まるで、自分の中に小さな悪魔が住み着いたような、そんな不気味な夜と朝でした。
二日酔いの症状は、血中アルコール濃度がほぼゼロに戻る頃にピークとなり、24時間以上続くこともあります[1]。

なぜ“一時的に効いた気がする”のか?
迎え酒をしている最中、確かに頭痛が少しやわらいで「効いてる!」と感じました。でも、あとになって冷静に考えると、それは“治った”のではなく、単に脳が一瞬ごまかされた状態だったんだと思います。
アルコールは神経伝達物質(脳内で情報のやり取りに使われる化学物質)のバランスに作用し、一時的に不安や痛みの知覚を鈍らせます。つまり、痛みを消したというよりも、痛みを感じにくくしただけ。しかも体の中では、まだアルコールを分解しようと肝臓がフル稼働している最中なので、結果的に“二日酔いの原因物質”であるアセトアルデヒドの処理は先延ばしになっています。
だから、迎え酒をするとその場は楽になった気がしても、分解作業はさらに長引き、結局あとでツケが回ってくるんですよね。私もまさにそれを体感しました。午前中はなんとか動けても、午後から地獄が始まり、夜にはさらにしんどくなる。いわば「痛み止めを打って仕事をしたけど、あとから悪化した」という感覚に近いかもしれません。
この経験を通して、「迎え酒は治療じゃなくて一時的な逃げ道」だと強く実感しました。短時間の安心感と引き換えに、翌日の回復スピードを犠牲にしてしまう。まさに離脱症状の“先送り”だったと、身をもって理解した瞬間でした。
アセトアルデヒド(アルコール代謝で生じる短命だが有害な中間代謝物)が炎症などに関与します[1]。飲酒時は抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌が抑えられて利尿が増え、軽度の脱水が起こりやすくなります[1]。そして二日酔いには、軽い離脱(ミニ禁断)に似た不調も関与します[1][3]。
公的機関は「Hair of the dog(迎え酒)は一時的に楽に感じても、むしろ不快感を長引かせるおそれがある」と明確に否定しています[1][6]。

迎え酒の危険性
迎え酒を一度やってしまうと、「あの時少し楽になった」という記憶が残り、次も同じ方法で乗り切ろうとする自分が出てきます。これが怖いところです。朝からアルコールを入れることに抵抗がなくなり、気づけば習慣化してしまう――いわゆる依存への入り口です。
さらに、体はアルコールに耐性を作るので、同じ量では効かなくなり、だんだん量が増えていきます。これが繰り返されると肝臓への負担は当然大きくなり、回復どころか慢性的な疲労感やだるさが抜けなくなる悪循環に陥ります。
一番きつかったのは、自己効力感(自分をコントロールできる感覚)の低下です。「結局、酒に頼らなきゃ朝を乗り越えられないのか」という思いが、じわじわと自分の自信を削っていく。翌日、同じ状況になったときに「もう一口だけ…」とつぶやく自分が頭をよぎるのも、なんとも言えない怖さがありました。
一瞬の楽さと引き換えに失うものは、体の健康だけではなく、心の強さや自己肯定感まで含まれている――迎え酒を通じて、それを身をもって痛感しました。
日本の公的資料でも、CAGE(飲酒問題のスクリーニング質問票:Cut down/Annoyed/Guilty/Eye-opener=迎え酒)で「迎え酒」は依存のサインとして扱われています[7]。習慣化は耐性を高め、量が増え、肝臓への負担や健康被害のリスクを押し上げます。アルコールは長期的に多様な疾患リスクを高めることが確立しており[8]、短期の「楽さ」と引き換えに失うものは小さくありません。

個人的におすすめの二日酔いケア
今回の体験から学んだのは、「迎え酒」ではなく、もっと体に優しい回復ルーティンを選ぶべきだったということです。まず、電解質入りのドリンクと常温の水を少しずつ交互に飲む。これだけで体の中の脱水感がやわらぎ、頭の重さも少しマシになりました。一気飲みせず、10〜15分おきに少しずつ飲むのがポイントでした。
次に、冷却。首の後ろやこめかみに冷却ジェルを当てると、頭痛がほんの少しやわらぐ感覚がありました。冷たいシャワーほど体力を奪われないので、寝転びながらでもできるのが良かったです。
さらに、食欲がない中でもバナナやおにぎりなど軽い炭水化物を少しだけ口に入れると、胃が落ち着き、血糖値が上がることで頭がぼんやりする感覚が減りました。ここで脂っこいものを食べると逆効果になるので、あくまでシンプルなものがベストでした。
最後に、深呼吸。ソファに座って5秒かけて息を吸い、7秒で吐き出す呼吸を何度か繰り返すと、動悸が少し落ち着いて不安感がやわらぎました。迎え酒の一時的な快楽より、こうした小さなケアを積み重ねる方が、結果的に回復も早く、次の日に後悔しなくて済むと強く実感しました。
電解質飲料(いわゆるスポーツドリンク)については「電解質の乱れと二日酔いの重症度の関連は明確でない」とする公的レビューもあります[2]。NHSも水・ソーダ水・アイソトニック飲料など“胃に優しい液体”での補水を勧めています[6]。さらに、糖分やブイヨンなど“入れやすい栄養補給”を示しています[6]。
冷たいシャワー自体は“治療”ではないとされますが[1]、体力を奪わない範囲の局所冷却は実感として助けになりました。

24時間リカバリープラン
0h(起床直後)
まずは常温の水をコップ1杯ゆっくり飲む。胃がびっくりしないように一気飲みはNG。その後、電解質入りのスポーツドリンクを100mlだけ。カーテンを開けて太陽光を浴び、体内時計をリセットします。頭痛があっても、とりあえず着替えてベッドから抜け出すのがポイントでした。
2h(午前中)
冷却ジェルをこめかみと首に当てながら、ソファで深呼吸。食欲が出てきたら、バナナかおにぎりなど消化の良いものを少量食べました。ここでコーヒーを飲みたくなるけれど我慢。代わりに白湯を少しずつ飲んで体を温めました。
6h(午後)
少し回復してきたら、短い散歩へ。外の空気を吸うと頭がスッキリします。帰宅後にシャワーを浴びて体をさっぱりさせると、ようやく「復活した」と感じられました。この時点でパソコン作業も集中できるレベルに。
就寝前
軽めの食事と常温水。スマホを手放し、深呼吸して就寝準備。二日酔いの“唯一の確実な治療”は時間であることも意識しました[1]。

二日酔い「予防」こそ最大のケア
痛感したのは、「二日酔いの唯一の回避策は飲み過ぎないこと」という当たり前の事実[1]。とはいえ場が楽しいと崩れがちなので、次からは以下を実践しています。
飲む前
出かける前に必ず軽く食事をしておくようにしました。おにぎりやサンドイッチなど胃に優しい炭水化物を入れておくと、アルコールの吸収が緩やかになります。[6]さらに、水をコップ1杯飲んで体を潤してから出発。これだけでも翌朝のダメージが全然違いました。
飲んでいる最中
1杯飲んだら必ず水かお茶を挟む「チェイサー」を徹底。これだけでペースが落ちて、酔いが回るのがゆっくりになります。[6]あと、濃いお酒は避けてビールやハイボールなど薄めのものを選ぶ。周りのテンションに合わせて一気飲みせず、自分のペースを守るように意識しました。
帰宅後
就寝前に水分での再補水。必要に応じてアイソトニック飲料など“胃に優しい液体”で補う[6]。

迎え酒という誘惑
迎え酒をしてしまった日の翌朝、私は本気で「次は絶対にやめよう」と思いました。でも、二日酔いの頭痛や吐き気があると、また同じ誘惑が頭をよぎるんですよね。そこで実践したのが、まず自己対話です。「これは本当に必要?」「一時的に楽になっても午後が地獄になるよね」と声に出して自分に言い聞かせると、少し冷静になれました。
迎え酒をしたくなった瞬間に、まずは水を一口飲んで、5分だけ待つルールを作りました。意外とこの5分で衝動が収まることが多かったです。冷却ジェルを当てたり、深呼吸をしているうちに「もうちょっと耐えられるかも」と思えるようになりました。
そして大事なのが小さな勝ちの積み上げ。朝を酒なしで乗り越えられた日は、ノートに「今日は迎え酒しなかった」と書き残しました。これが続くと「せっかく3日間耐えたから、今日も我慢しよう」という気持ちになり、自己肯定感がじわじわ回復していきました。
同じように二日酔いで苦しんでいる方には、どうか一歩立ち止まって、自分の体と心に優しい方法を選んでほしい。あの日の私のように「楽になる代償」を払わなくて済むように──。
参考文献
- National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism (NIAAA). Hangovers. Updated March 2021. https://www.niaaa.nih.gov/publications/brochures-and-fact-sheets/hangovers
- NIAAA(日本語版). 二日酔い(PDF). https://www.niaaa.nih.gov/sites/default/files/publications/Hangovers_Japanese.pdf
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. 二日酔いのメカニズム. 最終更新日:2025年9月1日. https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-03-005.html
- U.S. Food and Drug Administration (FDA). Acetaminophen. Updated Aug 14, 2025. https://www.fda.gov/drugs/information-drug-class/acetaminophen
- NIAAA. Alcohol–Medication Interactions: Potentially Dangerous Mixes. Updated May 8, 2025. https://www.niaaa.nih.gov/health-professionals-communities/core-resource-on-alcohol/alcohol-medication-interactions-potentially-dangerous-mixes
- NHS 111 Wales. Hangover. Last updated June 23, 2023. https://111.wales.nhs.uk/hangover/
- 厚生労働省. 「飲酒ガイドライン」作成のために(PDF). 2022年11月14日.(CAGE質問票「迎え酒」項目を含む)https://www.mhlw.go.jp/content/12205250/001025369.pdf
- World Health Organization. Alcohol (Fact sheet). Updated June 28, 2024. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/alcohol