最初の3日間の葛藤
正直に言うと、禁酒を始めようと思ったのは「このままじゃ体も心も壊れる」と感じた瞬間があったからです。毎晩のように缶ビールやハイボールを開け、気づけば寝落ち。朝は頭が重く、鏡の中の顔はむくみ気味。週末になると「まぁ今日くらいは」と言い訳をしながら飲み、気づけば習慣ではなく依存に近い形になっていました。
初日、仕事終わりにコンビニの前を通るとき、つい手がアルコール棚に伸びそうになりました。喉が「ビールの泡を欲してる」と訴えてくる感覚。代わりに炭酸水を握りしめてレジに並びましたが、レジ待ちの短い時間がやたら長く感じて心臓がドキドキしていました。
2日目はさらにしんどくて、夜の静けさが妙に落ち着かない。布団に入っても眠れず、スマホをいじりながら「やっぱり一本だけ…」という言葉が頭をぐるぐる。結局は冷蔵庫にあったノンアルコールビールでごまかしましたが、正直「偽物で誤魔化してるだけじゃないか」と自分に突っ込みを入れたくなりました。
なお、飲酒を急にやめると、依存度によっては不眠や不安などの離脱症状が出ることがあり、強い症状がある場合は医療機関に相談すべきだとされています。[9]
3日目になると、少しずつ体に変化が出始めました。朝起きたときの頭の重さが軽くなっていて、「あれ、意外とすっきりしてる?」と驚いたんです。ただその一方で、仕事帰りの電車では「今日こそ飲んでしまおうか」と悪魔のささやきが止まらない。帰宅して冷蔵庫を開けたときにアルコールが入っていないことを確認して、ようやく「今日も乗り切った」と胸をなでおろしました。
この3日間は、体というよりも心との闘いでした。飲みたい欲をどうごまかすか、どう気をそらすか。自分の弱さと向き合わされる時間でもあり、正直、予想以上にきつかったです。

1週間目
禁酒を始めて1週間。正直、この辺りから「やめて良かったのかも」と思える瞬間がちらほら出てきました。まず最初に気づいたのは、朝の目覚めです。いつもなら頭が重く、二度寝したくなるような感覚が残っていたのに、この1週間は目覚ましが鳴るとスッと起きられる。布団から出るのがそこまで苦じゃなくなったんです。「あれ?こんなに朝が楽だったっけ?」と自分でも驚きました。
寝酒は入眠を早める一方で、夜間の中途覚醒や浅い睡眠を増やすことが知られており、飲まない日のほうが睡眠の質は整いやすいとされています。[2][3]
体の変化も少しずつ表れてきました。顔のむくみが心なしかスッキリして、鏡を見るたびに「あれ、ちょっと違う?」と感じる。体重計の数字は劇的には変わらないものの、アルコールは1gあたり約7kcalとエネルギー密度が高い「空腹感を満たさないカロリー」で、日々の摂取をやめるだけでも余分なカロリーを削れます。[6]また「標準的な1杯(standard drink)」には純アルコール約14gが含まれるため、日々の「何杯」を減らすことは、その分のカロリー減につながります。[5]
ただ、その一方で心のざわつきは続いていました。仕事終わりに飲みに行く同僚のLINEを見ると、胸の奥がチクリとする。コンビニで缶ビールを手に取っている人を横目にすると、「なんで自分だけ我慢してるんだろう」と少し寂しくなる。家に帰って冷蔵庫を開けると、見慣れたアルコールの缶がなくて、妙に空虚な気持ちになる瞬間もありました。
夜は夜で、眠りが深くなった分、逆に布団に入ったときに「飲まなくても眠れるのか?」と不安が押し寄せてきます。アルコールは睡眠の後半に覚醒を増やし、REM睡眠(急速眼球運動睡眠)や睡眠の連続性を乱すことが報告されています。[3]でも、眠ってしまえば翌朝のスッキリ感が待っている。その体験が、次の日も禁酒を続ける小さな支えになりました。
1週間を終えて感じたのは、「体は確実に楽になっているのに、心はまだ追いついていない」ということでした。飲みたい衝動と、飲まないことで得られる爽快感。その間で揺れ動く心を抱えながら、なんとか1週間をクリアしたのです。

10日目:夜の眠りが変わり始めた瞬間
禁酒を始めて10日目、ついに「これは明らかに違う」と感じる瞬間がやってきました。夜の眠りが、まるで別物になったんです。
それまでは寝付きが悪く、ベッドに入ってから30分以上ゴロゴロとスマホをいじっているのが当たり前でした。アルコールを飲んでいた頃は「眠れる」と思っていたけれど、実際は夜中に何度も目が覚め、朝になると体は重く頭もぼんやり。睡眠の質は悪化しやすいことが知られています。[2][3]
ところが10日目の夜、布団に横になった瞬間に「あ、眠れるかも」と直感的に思ったんです。体が自然にリラックスしていく感じで、目を閉じるとスッと眠りに落ちました。しかも夜中に一度も起きずに朝まで熟睡。朝目覚めたときの感覚は本当に新鮮で、「あぁ、これが本当の睡眠なんだ」と眠りの深さを実感しました。
アルコールは睡眠段階(とくにREM睡眠)の構造を変化させ、結果的に睡眠を断片化させることがあるため、飲まない日の方が自然な睡眠構築に戻りやすいのだと思います。[3]
もちろん、ここに至るまでに「飲んだらすぐ寝れるのに」という誘惑と何度も戦いました。特に仕事で疲れた日なんかは、アルコールの力に頼りたい気持ちがムクムクと顔を出してきます。でも、10日目の朝の爽快感を体験してからは、「あの感覚のためなら今夜も飲まないでおこう」と思えるようになりました。
禁酒10日目で訪れた眠りの変化は、私にとって大きなターニングポイントでした。眠りが変わると日中の集中力や気分まで違ってくる。アルコールはメンタルヘルスにも悪影響を及ぼしうるため、断つことで気分の安定が得られる人もいます。[4]

禁酒2週間で感じた体重の変化と食欲
禁酒を始めて2週間。体重計に乗ると、数字はわずかにマイナス1.5kgほど。正直「思ったより減ってないな」と肩透かしもありました。でも、毎晩のビールやハイボール由来のカロリーがなくなるだけでも、長期では差がつきます。アルコールは1gあたり約7kcalで、一般的なビール1杯(約350mL、アルコール度数による)はおおむね100〜150kcal程度と見積もられます。[6][7]
一方で困ったのは食欲の揺れです。お酒をやめたことで、夜に妙に甘いものを欲するように。これは私の主観だけでなく、アルコール使用障害(AUD)などの人では断酒初期に甘味嗜好(強い甘さを好む傾向)が高まることを示した研究があります(個人差があります)。[7][8]数日すると甘いもの欲求は落ち着き、代わりに炭酸水やフルーツで満足できるようになりました。
禁酒2週間で気づいたのは、体重の数字よりも「食との向き合い方」が変わるということ。お酒に頼らず自分の欲をどう満たすか、試行錯誤の連続でした。わずかな体重減より、この「揺れる食欲」と付き合えるようになったことが、大きな一歩でした。

メンタル面での発見と感情の波
禁酒を始めてまず驚いたのは、「気分は一直線に良くなる」わけじゃないという現実。朝は軽くなった気分でスタートできるのに、夕方17時を過ぎると急にソワソワする。会社を出てコンビニの前を通ると、から揚げの匂いと一緒に“飲みたいスイッチ”が入って、胸の奥がザワッとする——この波が毎日ほぼ同じ時間にやってくるのが不思議でした。
5日目くらい、イライラのピーク。小さなことでムッとして、エレベーターが来ないだけで舌打ちしそうになる。今思えば、アルコールに任せてぼかしていた感情が、素面だとそのまま出てくるだけでした。夜、ベランダに出て深呼吸して、冷たい炭酸水をコップに注ぐ音をわざとゆっくり聞く。そうやって“間”をつくると、怒りの熱が下がっていく実感がありました。
なお、強い不安や不眠などの離脱症状が続く場合は医療相談が推奨されています。[9]
意外な発見はもう一つ。9日目、同僚と軽くご飯に行ったとき、素面のままで話が深くなったことです。いつもならビールの勢いで冗談ばかりですが、その日は相手の表情の変化に気づけて、仕事の本音や不安をちゃんと聞けた。帰り道、「酔わなくても人って近づけるんだ」と妙に安心しました。
アルコールは気分障害や睡眠の乱れに関連しうるため、距離を置くことで気分の安定や対人コミュニケーションの質が上がる人もいます。[4]
逆にしんどかったのは、週末の夜の“空白”。飲まないと、時間がやたら長く感じる。最初はSNSをだらだら見て埋めようとしたけれど、余計に落ち込むだけ。そこで、湯船に10分浸かってから、手帳に“今日できたことを3つ”書き出すようにしました。たとえば「朝起きてストレッチ」「昼に散歩」「夜に皿洗い全部」。笑っちゃうくらい地味ですが、不思議と自己嫌悪が薄れます。
11日目、理由は特にないのに、胸がぎゅっと重くなる瞬間がありました。これもアルコールで押し流していた感情が出てきただけだと受け止め、照明を少し落として、好きなプレイリストを流しながら温かい麦茶を飲む。15分くらいボーッとしていたら、波は去っていきました。感情って“悪者”じゃなくて“通過するもの”なんだな、と身体で理解できた気がします。
FOMO(Fear of Missing Out:自分だけ取り残される不安)もありました。でも、10日目の熟睡と翌朝の軽さを何度か経験すると、JOMO(Joy of Missing Out:あえて逃したことを喜べる感覚)に切り替わっていきます。「今日は飲み会を断って、そのぶん明日の朝を取り戻す」という選択に、小さな誇りが生まれました。
もうひとつ現実的な気づき。午後に不安が強くなる日は、昼食が炭水化物に偏っていたり、単純に水分が足りていなかったりしました。水を500ml飲んで、プロテインかヨーグルトを少し入れると、30分後には気持ちが安定する。メンタルの波には、生活の“燃料切れ”が絡んでいることが多いんだと体感しました。
総じて、禁酒中のメンタルは「波がなくなる」のではなく、「波に飲まれにくくなる」。波の来る時間帯やきっかけ(匂い、帰宅動線、空腹)を把握して、対策(炭酸水、温浴、手帳、音楽、たんぱく質と水分)を先回りで置いておくと、感情の揺れはちゃんと乗りこなせます。2週間の終わりには、「今日は荒れ気味だな。でも、この波も超える」と言える自分がいました。

「お酒がなくても大丈夫」と思えた瞬間
禁酒を始めて2週間目のある夜、ふと「あ、もうお酒に頼らなくても平気かも」と思える瞬間がありました。
その日は特に仕事でストレスが溜まっていて、以前なら間違いなく帰りに缶ビールを買って帰るような日でした。でも家に帰って冷蔵庫を開けると、並んでいるのは炭酸水と麦茶だけ。最初は「なんだか物足りないな」と感じたのですが、炭酸水をグラスに注いでひと口飲んだ瞬間、体の奥がスッと軽くなる感覚。アルコールでなくても、シュワっとした刺激で十分に満足できることに気づきました。
さらに驚いたのは、その後の時間の過ごし方です。お酒を飲んでいた頃は、酔いが回るとソファでウトウトしながら動画を見て、そのまま寝落ち…が当たり前。でもその夜は、頭が冴えていたおかげで本棚から久しぶりに小説を手に取り、気づけば1時間も集中して読んでいました。読み終えたときの充実感は、お酒で得る「一時的なリラックス」とはまるで違っていました。
そして布団に入るとき、ふと思ったんです。「今日は飲んでないけど、むしろこっちのほうが気持ちいいかもしれない」。翌朝の目覚めも軽くて、体も心もクリア。
アルコールは睡眠パターンや気分に悪影響を与えうるため、距離を置くことで生活全体が前向きに動き出す人もいます。[3][4]
もちろん今でも「飲みたいな」と思う瞬間はあります。でも、その夜の体験が「お酒以外にも自分を満たす方法はある」という実感につながり、禁酒の大きな支えになっています。

禁酒14日間を終えて振り返る、自分への気づき
禁酒を始めて14日。長いようで短かった2週間を振り返ると、「お酒をやめる」という行為以上に、自分自身と向き合う時間だったなと感じます。
まず気づいたのは、いかに自分の生活が「飲むこと」を前提に回っていたかということです。仕事終わりの一杯を想定して夕飯を決めたり、翌日の予定を「二日酔いでも大丈夫か」で調整したり。今思えば、お酒中心のスケジュールでした。それがなくなったことで、時間の使い方がシンプルになり、夜の“空白”に戸惑いながらも新しい習慣を作る余地が生まれました。
次に感じたのは、体よりも心の変化の大きさ。朝のスッキリ感やむくみの軽減も嬉しいけれど、それ以上に「感情の揺れをアルコールに頼らず処理できた」という自信が大きかった。イライラや寂しさに襲われるたび、炭酸水や音楽、本で気持ちを乗り越えられた経験は、自分の中に“もう一人の強い自分”を見つけたような感覚でした。
そして最後に得た気づきは、「お酒をやめた自分のほうが好きだ」ということ。もちろん飲んで楽しくなる時間もあるけれど、今の自分は朝から体が軽く、思考もクリアで、何より「自分で選んでコントロールできている」という誇りを持てています。これは数字では測れないけれど、大切な変化でした。

これから禁酒を続けたい人への正直なアドバイス
禁酒を2週間続けてみて思うのは、「禁酒は気合だけでは乗り切れない」ということ。意思の力に頼ろうとすると、必ずどこかで折れてしまいます。だからこそ、仕組みづくりと気持ちの切り替えが大事。
1)代替飲料を用意する。私は炭酸水を常に冷蔵庫に。グラスに氷を入れて注ぐと、雰囲気はほとんどビール。喉越しで満足感を得られるので、「飲みたい」という衝動をやり過ごすのに役立ちました。
2)夜の時間の過ごし方を決める。「風呂にゆっくり入る」「本を1章読む」「手帳に今日の出来事を書く」など、習慣に置き換えると気持ちが安定します。
3)完璧を求めすぎない。もし飲んでしまっても「それでも昨日より一歩前進」と受け止める。禁酒は短距離走ではなく、長いマラソンです。
安全上の注意:長期間の多量飲酒後に急にやめると、離脱による不眠・不安・発汗・震え、重症例ではけいれん等が起こることがあります。強い症状がある、または心配がある場合は自己判断で断つのではなく医療機関に相談してください。[9]
その先には、「お酒がなくても心地よく生きられる自分」が待っている——この実感は、禁酒を続ける何よりのモチベーションになります。

参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. アルコールのエネルギー(カロリー). https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/al-02-001.html
- 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド 2023(Q&A24「寝酒で眠ることの是非」ほか). https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001332677.pdf
- National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism (NIAAA). Alcohol and Sleep I: Overview. Alcohol Research: Current Reviews. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6061900/
- World Health Organization (WHO) Europe. Alcohol use – Fact sheet (2024-08-21). https://www.who.int/europe/news-room/fact-sheets/item/alcohol-use
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Standard alcohol drink sizes (2024-12-12). https://www.cdc.gov/alcohol/standard-drink-sizes/index.html
- NHS. Calories in alcohol. 「アルコールは1gあたり約7kcal」等の説明を含む。 https://www.nhs.uk/live-well/alcohol-advice/calories-in-alcohol/
- Kampov-Polevoy AB. Association between preference for sweets and excessive alcohol consumption. Alcohol Alcohol. 1999;34(3):386–395. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10414615/
- Braun TD, et al. Prospective Associations between Attitudes toward Sweet Foods and Alcohol Use. Nutrients. 2021;13(9):3073. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8462793/
- Cleveland Clinic. Alcohol Withdrawal: Symptoms, Treatment & Timeline (2024-01-25). https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/alcohol-withdrawal
- 国立精神・神経医療研究センター(NCNP). お酒を飲むとぐっすり眠れる?(アルコールと睡眠). https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/sleep-column22.html